この記事ではトレーサーガス減衰法を用いた測定量から換気量を求める演習問題を紹介して行きます。トレーサーガス減衰法がどんなものなのかについては、下の記事にまとめていますので、そちらをご覧していただいてからこの記事を読んでいただけると、一層理解が深まります。
それでは早速演習問題とその解説に入っていきましょう。実際に紙とペンで手を動かしながら読み進めていってくださいね。
トレーサーガス減衰法を用いた測定量から換気量を求める問題
問題
ある単室住宅(平面5[m]×6[m]、天井高さ2.4[m])について、CO2を約8000[ppm]まで充満した後、CO2発生を止めて、前開口を一斉に開放した。開放後、濃度測定を行い下の表の結果を得た。この単室住宅の換気回数を測定しなさい(外気のCO2濃度は0.038[ %]とする)。
時刻 | 測定値[ppm] |
9:00 | 3,280 |
9:30 | 2,080 |
10:00 | 1,380 |
10:30 | 990 |
解説
それでは解答・解説に入っていきます。
今回の問題は、部屋にCO2を充満させ開口を開けることでCO2濃度が減っていく過程を測定し、そこから換気回数(1時間に何回部屋の空気が入れ換わるか)を求めるものです。CO2ガス濃度は減衰していくため、トレーサーガス減衰法が使えます。
トレーサーガス減衰法で使用する式は以下のようなものでした。
Q = 2.303 × V/t × log10(p1 – p0)/(pt – p0)
こちらは、ガス減衰時の、開口開放からのある時間tにおける換気量Qを求める式となります。それぞれの文字を確認しておきましょう。
Q:換気量[m³/h]、V:室容積[m³]、t:開口開放からのある時刻[h]、p1:初期のトレーサーガス濃度[ ppm]、p0:外気のトレーサーガス濃度[ppm]、pt:時間tにおけるトレーサーガス濃度[%]
では上の式を使って、実際に換気回数Nを求めていきましょう。換気回数Nは室容積Vがわかれば換気量Qから求めることができます。そのため、まず換気量Qを求めます。
換気量を求める式は、
Q = 2.303 × V/t × log10(p1 – p0)/(pt – p0)
です。ますはじめにlog10(p1 – p0)/(pt – p0)を調べるために、常用対数グラフを書きます。グラフに使用する値を表にまとめると、以下のようになります。
時刻 | 測定値[ppm] | pt – p0[ppm] |
9:00 | 3,280 | 2,900 |
9:30 | 2,080 | 1,700 |
10:00 | 1,380 | 1,000 |
10:30 | 990 | 710 |
p0は外気のトレーサーガス濃度ですが、問題文に”外気のCO2濃度は0.038[%]とする”と書いてありますので、p0=380[ppm]となることがわかります。よって表の右列のpt – p0はpt – 380と等価です。上の測定値をもとに常用対数グラフを描くと以下のようになります。
トレーサーガス減衰法では、(p1 – p0)/(pt – p0)=10となる時間tをTとおきます。
(p1 – p0)/(pt – p0)=10 ⇄ (p1 – p0) = 10(pt – p0)
となりますので、(pt – p0)が(p1 – p0)の1/10となる時刻tをTをします。なぜ10なのかというと、トレーサーガス減衰法では常用対数(底が10の対数)をとっていますので、Q = 2.303 × V/t × log10(p1 – p0)/(pt – p0)におけるの(p1 – p0)/(pt – p0)が10となれば、log10(p1 – p0)/(pt – p0)が1となり計算がしやすいためです。
(p1 – p0)/(pt – p0)=10となる時間tをTとすると、
Q = 2.303 × V/T × log1010
= 2.303 × V/T
と変形することができます。換気量Q=N×Vですので、これを代入すると、
Q = 2.303 × V/T
N×V = 2.303 × V/T
換気回数N = 2.303 × 1/T
と換気回数Nを求める式にすることができます。換気回数Nを求める式に変形したので、(p1 – p0)/(pt – p0)=10となる時間tをTを求めましょう。これはグラフあるいは表からおおよその値を求めることが可能です。グラフと表をもう一度確認しましょう。
時刻 | 測定値[ppm] | pt – p0[ppm] |
9:00 | 3,280 | 2,900 |
9:30 | 2,080 | 1,700 |
10:00 | 1,380 | 1,000 |
10:30 | 990 | 710 |
これらのグラフと表から、(p1 – p0)/(pt – p0)=10となる((pt – p0)が(p1 – p0)の1/10となる)時間t(T)は、おおよそ2時間20分であると推測できます。2時間20分は2.33時間です。よってT=2.33[h]となります。これを、
換気回数N = 2.303 × 1/T
に代入することで、換気回数を求めることができます。実際に代入して答えとしましょう。
換気回数N = 2.303 × 1/T
= 2.303 × 1/2.33
≒ 1.0[回/h]
解答
換気回数:1.0[回/h]
まとめ
この記事ではトレーサーガス減衰法を用いた換気回数を求める問題と解答解説を紹介しました。トレーサーガス減衰法は慣れると素早く問題を解いたり換気量を推測したりできますので、今回のような問題は何度解き、理解を深めていってくださいね。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
コメントですが、(p1 – p0)/(pt – p0)=10となる((pt – p0)が(p1 – p0)の1/10となる)時間t(T)は、おおよそ2時間20分であると推測できます。2時間20分は2.33時間ですと書いてありますが、なぜそういう値が出たか理解できません。説明お願いして良いですか?
YOUN MINHO様
20分は何時間かというところを計算しますと、下記のようになります。
60分 = 1時間
↓ ÷3
20分 = (1 ÷ 3)時間 = 0.33..時間
上記より2時間20分 = 2時間 + 0.33..時間 = 2.33時間となります。